若きカール・マルクス
先に少し書いた『私はあなたの二グロではない』のラウル・ペックの最新作品と思われる昨年都内の岩波ホールで公開された作品である。原題は『LE JEUNE KARL MARX』。邦題は『マルクス・エンゲルス』。内容は、「共産党宣言』を出版し19世紀中期にドイツ、フランス、イギリスを行き来し精力的に政治活動、出版活動を展開したマルクスと盟友フリードリヒ・エンゲルスの若き姿を描いた秀作だ。当時、マルクス26歳、エンゲルス24歳。このほどレンタルショップに登場し、アカショウビンも二度目で熟視した。監督の意図は前作のドキュメンタリータッチとは異なる監督の創作である。監督は作品のなかでマルクスとエンゲルスが生きた時代と人々を再生した。監督はアカショウビンと同年代だ。中南米出身の監督と育った土地、風土は違っても同時代を生きた精神風土は共通するものがあるのだろう。実に面白く啓発される。二人の哲学者・思想家・行動者に対する評価はまちまちだろう。しかし、『私はあなたの二グロではない』を撮った監督が奴隷解放運動の頃のアメリカと所を変えて撮った作品は同じ監督のものとは思えない作品になっている。実に入念に仕上げられた物語だ。過去の或る時代の人と歴史背景を映像化するという行為は文芸において文字にするという行為と映画でも脚本、当時の建物、風俗を再生する楽しみと責任が伴う。それらが実にバランスよく監督は映像化したと思う。
マルクスの思想の可能性は今また見直されている。「近代ブルジョワ社会は、呼び出した悪魔を制御できぬ魔法使いと同じだ。封建制を打倒したブルジョワの武器が今や彼ら自身に向けられている」。『共産党宣言』の一節だ。イギリスに亡命したマルクスが病と貧困のなか書き続けた『資本論」も新たな読者を得て読み継がれているようだ。その成果が人間の未来を開く契機となることを。現在の若きマルクス、エンゲルスたちに期待する。
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