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2019年8月 9日 (金)

新藤兼人インタビュー

 溝口健二監督の昭和23年5月26日公開の『夜の女たち』のDVDに特典映像で新藤監督が溝口監督の人となりを語っているのが面白い。小津安二郎たち戦前から映画を撮り続けた名手の作品は興味深い。新藤は、溝口は作品を撮るために吉原遊郭を取材し講演までしたという。その成果は作品に生かされている。

 1912年生まれの新藤は、1937年、溝口の『愛怨峡』に美術助手として参加し『元禄忠臣蔵』(1941年)で建築監督に抜擢され溝口から高い信頼を得た、と記されている。

 新藤は、20年にわたり24本の溝口作品を担当した脚本家の依田義賢から聞いた話として次のように話す。

 ▶この作品で戦後に転換出来たかというと、そうじゃない。まだまだだ。溝口は過去を引きずっている。『祇園の姉妹』みたいな新しい世界の中に持っていき自由に羽ばたいた作品が撮れたか、というとそうではない。溝口さんは戦後に、そのような作品が撮れるか、非常に焦りがあったんですね。

 『夜の女たち』を撮っているとき、吉原まで行き、体験的にそういう女たち知りたい、と思うんですね。そこで溝口さんが講演し、皆さんの不幸は社会が作ったんだ、と話したらしいんですよ。本当にそう思っていたかわかりませんが。溝口さんはそういうところで話すのは、そういう言葉が正しいと思ったのでしょう。そして泣き出しちゃったというのです。皆さんの不幸は男の責任です、これも直情的で納得がいかないんですが、そういうところは、溝口さんが自分の過去をいかに捨てなければならないかという必死な姿ですね。

 このあとに玉島愛造の娼婦たちへの説教のシーンが挿入される。さらに新藤は語る。

 ▶戦後の民主主義の世の中に映画を撮りたいのなら、それらしいプロデューサーとシナリオライターを連れてくればいいじゃないと思うのですが、そうはいかないんですね。依田義賢や、その取り巻きたちと脱出したいんです。(中略)溝口さんは京都の仁和寺近くの借家に棲んでいましたが、静かで鐘の音か聞こえるところにいたら僕たちは置き去られます。東京に行きましょう、と松竹の監督として東京に出てきます。それが一週間もすると、こんなガチャガチャしたところにいるとダメになります。京都に帰りましょう、と言う。ほんとにそんな感じなんですよ(笑)。そんな事を繰り返しながら『夜の女たち』を作ったんですが、物語の中心はメロドラマ的な人情話ですよ。しかし、大塚の赤線地帯にキャメラを持って行って、キャメラマンの杉山公平に、「君はイタリーの映画を観ましたか、ロッセリーニ監督の『戦火のかなた』、『無防備都市』、君はもう古いんだ、だから変えなさい」と言うわけです。(中略)しかし自分は早く脱皮したいんだけど、誰も脱皮しない、というような焦りがありましたね。そこが溝口さんの凄い偉いところで、プロデューサーたちは、溝口は過去の監督で古いと言っているわけ、それで大映の企画部に行って何か撮ってやるから良い企画を考えてくれと言うわけ、撮らしてくれじゃないのが溝口らしいとこです。そういうことをしながら外国映画をたくさん観ましたね。そこで自分でキャメラを見ながら溝口さんは格闘していたのです。溝口さんが偉いのは、溝口はもうダメだと言われながら、それにヘタることなく、恥も外聞もなく、『西鶴一代女』(1952年)を企画なんかしているのですね。「ぼくは、きょうの監督ではありません。古い監督です。だから古いままにやります」と。はじめは松竹に持っていったのですが、そんな古い監督を相手にはしません。松竹には若い木下恵介などがいますから。

 ▶その頃に私は京都で溝口さんと度々お会いし食事したりお話をする機会がありました。そのとき生殺しになった蛇みたいな感じがあるんですよ。「溝口は、きのうの監督だから溝口とは映画を撮りませんというプロデューサーがいるんですよ、僕は、もう駄目ですか、古い溝口ですか、新藤君、どう思います?」という感じなんですよ。凄いですねぇ。普通はそこで挫折し倒れるわけですよ、大体は。そこから這い上がってきたわけですから。それまで戦前に女を描いてきて戦後の女を見ても、どこも変わっちゃいない、ということがわかったのね。そこで「僕は古臭くなっているわけがない」という考えかたなわけです。(中略)『西鶴一代女』は、プロデューサーを誤魔化して作った作品ですが素晴らしい作品が出来ましたね。主演は田中絹代です。非常に愛着がある。味方なんですよ。味方がいる、俺は一人じゃないんだ、味方がいる、それが自信になったんじゃないですかね。

 2006年8月22日、近代映画協会でのインタビューである。先日は、『西鶴一代女』を久しぶりに観た。『祇園の姉妹』も借りてきた。両監督の作品を視ながら夏を過ぎる幸いに感謝しよう。本日は長崎の原爆忌だ。夕刊の記事を読み何か感想も書こう。

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