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2015年12月20日 (日)

絶滅危惧種の秘かな愉しみ

 N響の定期に五嶋みどり(以下、敬称は略させて頂く)が登場。本日のテレビで久しぶりに五嶋のヴァイオリンを聴く。 ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番イ短調作品77。五嶋の姿は、鮮烈なデビューから今や円熟の境地を彷彿させる。指揮はパーヴォ・ヤルヴィ。興味深々の組み合わせだ。暗い第1楽章から2楽章は快活なスケルツォ。何とも素晴らしいリズム感である。3楽章はパッサカリアをじっくりと聴かせる。指揮者とは何度も共演したことがあるらしい。五嶋にとってもこの作品は自家薬籠中のもののようだ。楽譜の隅々まで熟知しているのだろう、細部まで様々な音色を使い分け表情豊かな演奏である。弱音の繊細さは格別。独壇場のソロから4楽章へ。この20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲の面白さはここに極まる。何とも久しぶりに名手の演奏を堪能させていただいた。

 コンサートは、続いてバルトークの「管弦楽のための協奏曲」。作曲者が白血病を患っていた頃に書かれた作品だ。しかも米国は戦争中である。その渦中での闘病の苦闘は3楽章の〝エレジー〟に象徴されているようにも思う。しかし第2楽章の〝対のあそび〟はユーモアがあふれる。ショスタコーヴィチにも通じる諧謔性を帯びている。この楽章間の対照は見事というしかない。バルトークの持ち味は、この楽章と3楽章に良く出ている。4楽章は懐かしさと不思議な諦念にみちた部分と諧謔性が横溢する。第5楽章終曲はオーケストラの能力が試される楽章とも言える。指揮者はよくオーケストラをドライブした。この作品は米国のオーケストラで何度も演奏したのだろう。

 続いてアルヴォ・ペルトの「フラトレス」。ペルトも指揮者と同じエストニアの音楽家である。この音楽家も20世紀を代表する人だ。久しぶりに作品を聴けたのは幸い。聞けばアカショウビンのようなクラシック音楽とジャズの愛好家は絶滅危惧種らしい。それはそれでよろしい。余命も残り少ない。その間に冥土の土産に音楽という不可思議な面白きものを、あの世で好き者たちと共に語り合うのだ。

 それにしても、この日の演目の白眉は五嶋のショスタコーヴィチだ。何とも緊張感あふれるソリストと指揮者、オーケストラの真剣勝負の様子が実によく伝わる名演だった。

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