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2015年12月15日 (火)

歴史を書物と映画で辿る

  『1★9★3★7』(辺見 庸 著 2015年10月27日 株式会社金曜日)は序章、終章を含めて全9章から成る。それぞれの見出しが辺見氏(以下、敬称は略させて頂く)のこれまでの著作の主題を彷彿させる。前書きのタイトルは、いま記憶の「墓をあばく」ことについて。以下、次の通り。序章 よみがえる亡霊 ①屍体のスペクタクル②非道徳的道徳国家の所業③かき消えた「なぜ?」④静謐(せいひつ)と癇症(かんしょう)⑤ファシストと「脂瞼(しけん)」⑥過去のなかの未来⑦コノオドロクベキジタイハナニヲ?終章 未来に過去がやってくる

 辺見の読者でなければ、興味のある、そのいずれかでも読みだせば著者の歴史事実・歴史意識・歴史認識、へのスタンスがわかる。主題は1937年の南京大虐殺である。この年来の歴史事実に対して戦後の東京裁判いらい1970年代には特に、あの大戦の日本の動向が改めて世界の注目を集めた。国内では左右の論壇を含めて社会的な話題になった。高校から大学の頃は同窓生の間でも。映画ファンには名匠、小津安二郎監督批判が第4章「静謐と癇症」で述べられている。もちろん、それは辺見の先の大戦への変わらぬスタンスの一環としてである。それを前提として読者は辺見の視角に対して自論を述べねばならない。各章も然りである。その基本姿勢にアカショウビンは同意し小津擁護、小津批判のコメントも加えるつもりである。

 先日は『この子を残して』という木下恵介監督の1983年の作品をレンタルDVDで見た。ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が来日しヒロシマでスピーチしたシーンが冒頭に出てくる。あの日の広島は雪が降りしきっていたのだ。そこで教皇は「過去を振り返ることは将来に対する責任をになうことです」というメッセージを会場を通して世界に伝えた。

 原作は永井 隆医師の生涯と作品を元にしている。当時の長崎に棲み原爆を生き残り、戦後昭和26年まで生き抜いた。その体験を出版しようとしたがGHQの検閲で多くの著作は死後になった。二人の残された長男、長女への深い愛情が切ない。医師としての責任感は原爆の科学的データとして後世に残した。作品は長崎市民を地獄のどん底に突き落とした悲惨を当時を再現するセットで日本人の執念のように描いた。主演は加藤 剛、十朱幸代、淡島千景ほか。木下監督の意気込みが伝わる作品である。若い大竹しのぶも出演している。主演はじめ出演者も監督の気迫に応えている様子が伝わる。ここにも先日少し書いた新作『母と暮せば』を完成させた山田洋次監督の先達、黒沢 明監督、新藤兼人監督、今村昌平監督、黒木和雄監督たちの、歴史事実にこだわる意志がある。辺見の著作と共に歴史を現在に反照させる作品だ。これも若い人たちはじめ内外の多くの人々に見て頂きたい。

 辺見の著書についてはアカショウビンも更に逐次コメントしていく。

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