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2014年6月22日 (日)

土着性

 ハイデッガーが「放下」(理想社 昭和38年12月10日、辻村公一訳)で述べていることの主題は〝土着性〟と〝故郷〟である。戦後、故郷から追放された多くの<ドイツ人>に関して故郷での講演の動機を探り、この主題を自らの思索の一貫として追求する。以下は旧仮名遣いを現代仮名遣いに改めて引用させて頂く。

 「私共は一層思いを潜め、そして問います、すなわち、一体何がここに於いて生じているのであるか―故郷から追放された人達の許でも、又それにも劣らず、故郷に留まっている人達の許でも―と。

 答、現代人の土着性(この語は強調の読点が付されている)が最も内奥に於いて脅かされているのであると。そればかりではなく更に、土着性の喪失は、単に何か外的な周囲の事情とか運命とかに依って惹き起こされているだけではなく、又人々の投げ遣りな態度とか表面的な生活の仕方に基づいているだけではないのであります。土着性の喪失は、その内に私共すべてが生み入れられた時代、その時代の精神に由来しているのであります。(中略)そして私共は問います、私共の時代に於いて本当に起こっていることは一体何であろうか、私共の時代を特色づけていることは何であろうかと。」(p16)

 ★これに続き、ハイデッガーは、それを「原子時代」として原子爆弾を著しい目印とみなす。しかしここからが更なる問いを差し出すハイデッガーの思索の真骨頂である。

 「しかし、この目印は単に、事態の前景に存する目立った一つの目印にすぎないのであります。何故ならば、原子力が平和的な諸目的のためにも利用されるということは最早認識されているからであります。そのために、今日原子物理学やその技術家は到る処で、原子力の平和的利用を遠大な諸計算にもとづいて実現しようとしているのであります。(p17)

 ★そして18名のノーベル賞受賞たちが発した声明文を引用する。

 「≪科学―というのは、ここでは現代の自然科学のことであるが―それは人間を一層幸福なる生活に導いてゆく一つの道である≫と。」(p18)

 ★それをハイデッガーは、それは果たして省察から発した主張であろうか、と問う。

 そしてそれに満足してしまえば、「私共は、、現代という時代への省察から、この上もなく遠く隔てられているのであります。何故でしょうか。私共は気遣いつつ思いを潜めて追思することを忘れるからであります、すなわちその問とは、科学的技術が自然の中に諸々の新しいエネルギーを発見することが出来、それらを開発することが出来たというこのことは、一体何に基づいているのか、という問であります。

 このことは、次のことに基づいているのであります、すなわちそれは、既にここ数世紀以来、基準となる諸表象のすべてに亙って或る一つの顚覆的変動が進行中である、ということであります。その変動に依って人間が、今までとは別な或る一つの現実に移し置かれつつある、ということであります」(p18)。

 ★ここから戦後のハイデッガーの思索は「存在と時間」という主題を更に展開させていく。戦後10年の思索は「故郷を失った」人々と共に継続される。それはドイツ人とは海で隔てられた我々日本という島国の安穏さとは異なる苛烈な思索である。米国とソ連という万力の間で死活を問われたドイツという国の哲学教師としてヤスパースもハイデッガーも思索を深めた。それは洋の東西を問わない、我々日本人や中国、朝鮮半島の人々、広くはインドから東南アジアの敢えて言えばキリスト教と対峙する仏教国の民に促される思索である。ヒロシマ、ナガサキ、フクシマは戦中、戦後で同じ次元で通底している。

 故郷とは何か?その回答は人それぞれの回答がある。先のブログで紹介した赤坂憲雄氏が、2011年4月21日に福島県南相馬市小高を訪れ島尾敏雄の人生に介在していった時にも、そのような想いが共振しただろうか。 赤坂(以下、敬称は略させて頂く)は文中、「島尾は奄美を仲立として『東北』を再発見していたのである」と述べている。島尾の「ヤポネシア論」は夙に有名だが、それはさておく。赤坂は東北の思想家には島尾の「どっちかというと異端の人が多い」という言葉を引く。島尾も、同郷の埴谷雄高も「異端の名にふさわしい作家ではなかったか」と赤坂は云う。

 ハイデッガーの云う〝土着性〟とこのような考察は無縁ではありえない。さらに熟考を重ねたい。

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