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2013年11月17日 (日)

大観展を訪れる

 友人のN君から頂いた招待券で横浜美術館の「横山大観展 良き師、良き友」を観に。以前に観たのは百貨店だか上野の美術館だか思い出さない。少なくとも数年以上前だ。先日観た竹内栖鳳も思い出され楽しんだ。ただ、会場に着いたのは午後2時過ぎ。午後6時の閉館まで作品を堪能するにはあまりに少ない。個々の作品の詳細は敢えて説明しない。作品は画集でなく実物に相対するしかないからだ。それはともかく、本日は他の名手たちの作品も観られるので比較の楽しさもある。天心の書軸、紫紅、未醒、芋銭、溪仙などの作品が。

 午後1時32分、快速アクティで東京発。体調はよろしくない。とにかく余生に観ておくべき作品は視ておくのだ。天気には恵まれた。あとは作品に集中するだけだ。会場には2時過ぎに到着。大観をめぐる人物相関図が親切。院展洋画部の小川芋銭、小杉未醒(放庵)、冨田溪仙や鉄斎ら京都画壇との関係が簡略されている。

 明治24年~26年に東京美術学校在学時代に描かれた「海岸図」は水墨の技術を習得し独特の構図が表現され、画家の才覚を如実に伝えている。大正4年の「焚き火」3巾がすばらしい。画集を見ると同じ表題で前年にも描いているが、こちらがよい。焚き火の炎が見事だからだ。それは「夜桜」の炎でも効果をあげている。真ん中の焚き火をを眺める寒山、拾得の表情がよい。世俗から離れた幾らかの狂気を含んでいる。

 大正元年の「瀟湘八景」は4巾展示されているが〝江天暮雪〟の雪山と人物の配置が絶妙。漱石は大観の独創性をユーモラスな感覚に見いだした、というが、それは隣の平沙落雁になされたものかもしれない。それほどに〝江天暮雪〟は絶品だ。

 金屏風の「寒山拾得」は大観の気宇が発揮されて面白い。それと並んで「観音秋冬図」、「雲中富士」が展示されている。それは良くも悪くも大観らしい奇想が発揮されている大柄な作品だ。それに「夜桜」を加えれば見る者を驚かすに十分とも言える。しかし大観の面白さの急所はそこにはない。「雲中富士」は大正4年作。群青色の富士は漱石のいうユーモラス性全開の作品だ。この群青色は画集では看取できない。作品と対面しなければならないのだ。昭和2年作の「雲揺らぐ」は先日観た竹内栖鳳の同じアングルのものとも比較されるが大観作は画家がユーモアだけでなく象徴性にも優れていたことを示して余りある。

 告知にも使われていた大正6年作の「秋色」はアカショウビンの好みではない。屏風絵の「湖上の月」(大正6年)は、それからすると圧倒的な独創性を見せている。画面の真ん中から左を占める空間が実に深淵だ。大正元年の「長江の朝」は小さな作品だが、これも同じ雪の白い空間が実に大観だ。「雪後(せつご)」も同様に空間美が素晴らしい。明治34年の「月下牧童」は画家の天才を発揮して余りある神品の味わいだ。このころ既に大観は一つの頂点に達していたと確信する。画集では色が死んでいる。やはり実物に相対しなければならないのだ。

 明治43年の中国旅行で描いた「長江の巻」は全巻の一部だが全巻を視たい衝動に駆られる。有名な「夜桜」は大観が東洋画の余白の美が欧米人に理解されないかもしれない、として画面全部を桜で埋め尽くした作品だが、やはり大観の作品で挑発されるのは余白を生かしたものだ。

 「観音秋冬図」(大正4年)は雪山と観音、春山を3巾並べている。これも雪山の白の美しさが際立つ。観音の下部の黒と春山の下部の黒が不気味さを醸し出して面白い。

 冨田溪仙の「観世音菩薩」(昭和11年頃)と「大聖不動尊」も才覚と諧謔精神が溢れる佳品だ。小川芋銭は横長の「積雨収(せきうおさまる)」(昭和5年)と縦長の「春夏秋冬」(昭和3年)の2巾が洒脱で画家の才覚が横溢している。

 大観が所有していたという天心の書軸が面白い。「遠慮めさるな 浮世の影を 花とゆめみし ひともある」という内容だ。「仰天有始観物無吾」は、天心の「天を仰げば、天上に世界の始まりを思い、物を心眼で見るならついに自我は消える、という天心の理想を大観に思い起こさせた書であろうか」という解説が記されていた。 

 迂闊だったのは、今回の展示が会期中の10月と11月で入れ替えられていたことだ。楽しみにしていた「屈原」は、10月5日から16日までの展示。それはともかく、今回の出品作で強く印象に残ったのは「焚き火」を先ず挙げたい。それに「瀟湘八景」、「雪後」。それに「湖上の月」と「長江の朝」だ。「月下牧童」は、それらを越えてより神韻縹渺という趣だ。やはり大観の面白さは余白にあるというのが改めて観ての総括としてもよい。このブログを始めた頃に書いた「隠棲」が出展されていないのが残念だった。

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