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2012年12月14日 (金)

俗物と野蛮と思索

 以下はかつてミクシイに書き込んだもの。ネットで発見し、数学者、岡 潔の新たに知った事実が記されていたので失礼して転載させて頂く。筆者の文体を損なわない程度で段落と句読点を変えたことをお断りする。
 
 岡は三高、京大の学生時代に〝王将″で知られる坂田三吉と親しく、時には将棋を指しながら、イロイロ教わった。岡の叔父が大阪で眼科医をしており、大変な将棋ファンで、坂聖二吉と親交を重ねており、医院にも三吉一門はよく訪れた。岡も同席し、観戦したり、指したりしたが、学問のない三吉は岡を尊敬し、一目おいていた。
 三吉は「起きている間だけ考えていてはダメ。寝ても覚めても考える。すると、よい知恵がバッと出る」「思案はタケノコみたいなもので、大部分は土の中に埋もれている」と哲学的な話をし、岡もすっかり共鳴していた。岡の数学へ徹底して打ち込む姿勢の中には三吉の教えが生きていた。

 岡の家には電話がなかった。「電話がないと不便だ!」と奥さんが何度も岡に電話局に申し込むようにいうと、きまって、「俗物!」と大きなカミナリが落ちた。電話など俗物の使う代物というわけ。岡は文明の利器とは一切縁のない男で、電話もかけられない。電気がヒューズがとんで消えても、自分で直せなくて電気屋を呼ぶ。ライターも石か油がなくなるとほうり出してしまって「やっぱりマッチの方がええ」と。

 本を読むのをやめなさい

 岡が一九三二(昭和七)年にフランス留学から帰り、郷里の紀見峠(和歌山県橋本市)の自宅で休養していた頃、岡は昼間でも雨戸を閉め切った真っ暗な部屋で、机の前だけ10センチほど開け、一日中考えにふけっていた。当時、頭の中で考えることを〝実験の場″と称しており、熱心に本を読んでいる友人には「本を読むのをやめなさい。あなたには実験の場が与えられている」と忠告した。タバコとコーヒーが大好きで、飯も食べずに思索にふけっていた。岡は日常生活には全くの無頓着で、ヨレヨレの背広にノーネクタイ。晴雨にかかわらず一年中雨グッをはいて大学に通っていた。「雨グッは底がゴムだから、頭にひびかないから思考の妨げにならない。皮靴はフランスの木靴のようで、中から折れず、歩くと頭にひびく。ところが、雨グッ軽くて、足が自由になって、ヒモをしめる面倒がなく、安くて、こんな便利なものはない」というのがその理由。

 背広でネクタイは「こんな野蛮なことはせん」としめない。着物を着ても、帯をしめない、「交感神経をしめつけるから」というわけ、ヨレヨレの背広で家に帰って風呂に入るまでは、着替えもしない。夜は着たまま寝床に入ってしまう。全くの無精そのものであった。一年中等通して、雨グッにコウモリガサ、よれよれの背広にノーネクタイが岡のトレードマークであった。こうした貧乏生活をしながら、本を書くようなお金になる仕事をもちこまれても岡はいつもあっさりと断った。「時間がもったいない」というのが理由。このため日本語の著書が文化勲章で一躍有名になるまでは一冊もなかった。数学には頭の中の思考を検証する鉛筆と紙、そして本が少しばかりあれば出来る。それ以外の器具はいらない。
 
 絶えず数学のことを考えており、熱中していい考えが浮かぶと、散歩中だろうが、いきなり道端にしゃがみ込んで石や木を拾い、むつかしい数式を書き込んでは計算を始める。解けるまで、時間でも二時間でもしやがみ込んで計算しており、道行く人は何事かと驚いた。
  路上に字を書くならまだしも、だれもいない道で突然、大演説を始めたり、小1時間も電柱に小石をぶつけたりしていた。(以上引用終わり)

 ★このような人の人となりを小生はかつて高校生のころ「好人好日」(1961年 渋谷実)という映画で見て面白かった。岡潔を笠 智衆が演じて娘を岩下志麻が演じていた。そこで「春宵十話」、小林秀雄との共著「対話 人間の建設」を読んだのだった。その後、この十数年、読み続けてきた保田與重郎の『現代畸人傳』(保田與重郎文庫16)で保田が描く岡潔を興味深く読んだ(「九 われらが愛國運動」)。
 保田の近代否定の思想の詳細が此の論考の中にも一人の数学者を通して詳細に述べられている。「岡先生の思想は、無限と永遠を根抵としている。日本が近代世界の仲間入りをしてこの方、誰一人もあからさまに云はなかつた眞理世界を、岡先生は、俗談平語のやうに語つてをられるのである」(同書p259)
 文芸誌で同書が連載されたのは昭和38年2月で、翌年10月一本として上梓された。文庫本の裏表紙に写されている初版本の文字は、かつて京都の河井寛次郎記念館で見た毛筆日記の書体も思い出された。
 映画は再見していない。昨年か一昨年、池袋の新文芸座でかかっていたが残念ながら見逃してしまった。

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コメント

数学者岡潔のことは兄が30年以上前に話していたので、名前だけは知っていましたが、記事を拝読して大変興味が出ました。坂田三吉の話も。
『好人好日』という映画も面白そうですね。

投稿: アヨアン・イゴカー | 2013年1月 6日 (日) 午後 03時55分

アヨアン・イゴカーさん

 コメントありがとうございます。私も引用させて頂いた文章で岡と坂田三吉との出会いを初めて知りました。私は映画が縁で著書や小林秀雄との共著を介し氏の人となりに関心を持ちました。保田與重郎の文章も久しぶりに読み直して保田の作品を改めて読み直そうと思います。

投稿: | 2013年1月 6日 (日) 午後 04時25分

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