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2012年1月16日 (月)

松井冬子展

 松井冬子さん(以下、敬称は略させて頂く)という画家と作品を知ったのは2008年4月20日に放映されたNHKテレビの「新日曜美術館」だった。その物凄さに驚愕した。画題は幽霊や人体の解剖図など或る意味でおぞましい作品が多いのだが日本画で習得した技術は抜群。実物を見るのを楽しみにしていたが先日やっと横浜美術館の「松井冬子展」で拝見できた。いやいや改めて傑出した才能と技術を確認した。今回の展示会は「世界中の子と友達になれる」という東京芸大の卒業作品を中心にしたものだが近作や「新日曜美術館」でも紹介されていた作品群も展示されており充実した個展になっている。

 詳細は不明だが松井は恋人から暴力をふるわれた過去を持つ。その恐怖と憤りから作品制作に集中していったと聞いた。作品制作の様子はかつてテレビ放映で興味深く見た。それは暴力の記憶を創作により消し去り、新たに生きる力に換える作業でもあると思われた。その過程は単純なものではなく試行錯誤であり時に自殺衝動もはたらいたであろう。しかし松井は殆ど奇跡的な力技でそれを乗り越えた。それはアカショウビンには羨望の如き思いに浸らせる。そのスケッチと完成作を熟視すれば驚愕し、こちらの怠惰を冷笑する思いさえ看取した。優れた芸術の到達する領域というのは、かくも高みに至ることが出来るという事実がそこに結晶している。上野千鶴子が評した「自傷系アート」という分類には強い違和感を持つ。そこには或る境地の高みが表出されているからだ。インターネットで散見するグロテスクという批判は当たらない。松井の優れた作品は存在論的にいえば芸術作品とは何かという痛烈な問いを求めてくる内容を秘めているからだ。本展は「第1章 受動と自殺」、「第2章 幽霊」、「第3章 世界中の子と友達になれる」、「第4章 部位」、「第5章 腑分」、「第6章 鏡面」、「第7章 九相図」、「第8章 ナルシシズム」、「第9章 彼方」という構成。近作も多く松井の現在を知ることができる考え抜かれた設営だ。

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