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2010年5月 8日 (土)

北林谷栄追悼

 遅まきながら先月27日にお亡くなりになった北林谷栄を偲ぼうと『阿弥陀堂だより』を数年ぶりに観直した。2002年公開の小泉堯史監督の佳作である。公開時に北林(以下敬称は略させて頂く)は92歳。DVDの特典映像では前年の制作発表記者会見の様子が見られ「私の最後の映画になると思う」と述べ劇団で同僚だった宇野重吉の長男「あきらちゃんが傍にいるのが嬉しい」と共演できる喜びを語っている。
 小泉監督にとっては『雨あがる』に続く第2作。黒澤 明監督に師事した同監督が前作の黒澤監督の影響を抜け出て自らの世界を造形した佳作だ。
 主演は寺尾 聡となっているが作品の主人公は北林演じるおうめ婆さん。この作品に深みを与えているのはロケ地、信州・飯山の自然の映像だ。監督は物語の進行に風景や自然の恵みとも思える映像を挟む。阿弥陀堂から眺められる棚田の自然は何とも日本的だ。保田與重郎が自らの思想の強固な基盤として繰り返し賛嘆した稲作文化の粋とも思われる風景である。信州の人々は自然の懐に包まれるように生きている。そこには醜い確執もあるだろう。しかし人間や自然の美徳と美しさを描くことがこの作品の基本姿勢である。そこで生み出された物語の進行と映像に感嘆するのだ。
 寺尾の妻役の樋口可南子は9年ぶりの映画出演という。ブランクを感じさせない佳演である。作品を支えるのは胃ガンで治療を拒否し静かに死を受け入れようとする主人公の恩師を演ずる田村高廣、香川京子の大御所。日本映画の名優たちは居るだけで風格を醸しだす。北林の天真爛漫と死を覚悟する田村と夫の覚悟に寄り添い看取る妻の姿の対比が物語に張りと効果を生み出す。おうめ婆さんの語りを文章にした、口のきけない病をもつ娘役を演じた小西真奈美の可憐な演技も言祝ぎたい。田村の死と小西の病からの蘇生。これが物語の骨格を支えている。
 特典映像のメイキングを見ると、天皇と崇められ畏れられた黒澤の演出と小泉の演出は異なる。それは出演者たちに格段の心配りをするものだ。黒澤組の先輩スタッフを受け継ぎそれはそれで実に好ましい姿だった。大女優の死を契機に現代日本映画の佳作を観直せた功徳を泉下の北林に感謝したい。

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