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2010年2月 6日 (土)

ケノーシスとは?(続)

 西山氏が伝えるラクー=ラバルトの晩年の講義から推察する彼の考察はルター派の神学をマルクスは政治思想として、ハイデガーは哲学に反映させた、ということである。西山氏が報告している〝ケノーシス〟は晩年のラクー=ラバルトの講義ではマルクスの〝プロレタリアート〟として次のように説明されている。

 まだ到来しないこの人間の現実的状況―なぜいまだ到来していないかというと、それが純粋に喪失しているからだ―に対して、マルクスは、プロテスタント神学の全体(そこにはプロテスタント的な終末論も含まれる)を基礎づけているひとつの神学的カテゴリー、すなわち、ギリシア語を転記して「ケノ-シス」と呼ばれているもののカテゴリーを適用しているように思われる。この語は「空無(vide)」を意味するのだが、同時に能動的な意味で理解しなければならない。タンクや水槽を空にするときにvidage(からっぽにすること)と言うように・・・。ルター以来今日に到るまでの改革派の神学は、神へと適用されたこのケノーシスの概念を中心的な神学素としてきた。受肉すべく完全にみずからをからっぽにした神。しかもこの神は、苦しみ、捨て去られ、死にいたるまでの受肉を被り、貶められる。これこそが神秘であり、啓示である。このように改革派の神学において、受肉は神のケノーシスとみなされる。同様に、マルクスにおいて、プロレタリアートは来たるべき人間のケノーシスと見なされる。このテクスト(「ヘーゲル法哲学批判序説」)の最後の言葉、「ケノーシス」こそが人類の希望、復活の希望である。すこし先回りしてしまったが、これこそがテクストの最後の一文で言われていることなのだ。「あらゆる内的条件が充たされたとき、ドイツの復活の暁(「ドイツ~暁」までには強調の読点が付されている)を、ガリアの鶏の鳴き声が告げ知らせるであろう」。ガリアの鶏の鳴き声の逸話は、ハイネからルーゲを経由してもたらされたものである。ガリアの鶏の鳴き声とは、フランス革命のことであり、ここではフランス革命が、ペテロがキリストを否認したときに鳴いたという鶏の鳴き声に比せられている。キリストはペテロに、「鶏が二度鳴くまでにお前は私を三度否認するだろう」と告げ、実際ペテロはそうしたという―そしてこのことが(逆説的に)キリストの神性を確証しているのである。この出来事は、あらゆる否定性のなかの否定性、絶対的なケノーシスにほかならない。キリストのもっとも忠実な弟子は、師が死にゆこうとしている瞬間に、師を見捨てるのだから・・・。俗っぽい言い方が許されるならば、完全に「からっぽになって」いるのである。しかしまた、まさにここに復活の証明があるのだ。(「貧しさ」 藤原書店 p206~207)

 マルクスの「ヘーゲル法哲学批判序説」は宗教をアヘンとしてプロレタリアートという概念を説明している論考である。そこでマルクスは「では、どこにドイツ解放の積極的な可能性はあるのか?」と問いプロレタリアートの概念を定義している。

 ラクー=ラバルトはマルクスの哲学の可能性をハイデガーを読解しながら「マルクス主義者」という立場から論じようとしているようにも思える。しかしそこにハイデガーのマルクス理解の可能性の微かな希望のようなものを期待している趣もある。それはあるのかどうか。

 ハイデガーはヘルダーリンの「精神たちのコミュニズム」という論考を自らの「貧しさ」と題した講演のなかで意図的にか知らずしてか下敷きにドイツ第三国帝国の崩壊のなかで戦後ドイツにヘルダーリンの政治思想を介して期待を託した、というのがラクー=ラバルトの考察である。ハイデガーは「豊かになるために貧しくある」という逆説の中に初期マルクスを読むことで哲学から現実へ橋渡しする可能性を思索していたのだろうか?それはハイデガーの戦後の思索を読み取ることで考察するしかない。その一端は戦後にハイデガーが指摘したギリシア人たちが解していた〝テクネー(技術)〟という語と概念が特にデカルト以降の近代西洋史のなかで〝工作機構〟として変質し展開された、という言説にも読み取られるだろう。マルクスやハイデガー、ラクー=ラバルトの論説、思索、考察はまたマルクスが生きた1840年代からハイデガーの生きた1945年以降のドイツを経てアカショウビンの生きる現在の日本においても共有される可能性があるように思う。それはルター派の神学の〝ケノーシス〟が仏教で説く〝仏性〟という概念を介してハイデガーやラクー=ラバルトの思索とも響き合うように思えるからだ。それは現在を生きるアカショウビンの思索と生き様を通じて伝え明かし継続される言説である。

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