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2009年12月25日 (金)

三酔人聖夜酔談

 或る飲み屋で聞いた三人の中年男女の話である。

 紳士 それにしても新政権の迷走と景気の悪さには困ったものですな。

 日雇い人夫 あんたなんかちゃんと暮しているんだからいいじゃねぇか。偉そうな口きくんじゃねえよ。

 主婦 まぁまぁ、そんなに絡んじゃ駄目よ、ロンちゃん。この方が言うように本当に政治家なんてあてにできない時代になったのものと思うわ。

 紳士 でしょう。私も生活するには困らなくても政治の茶番と国の将来を考えると暗澹たる思いに落ち込むのですよ。

 日雇い人夫 なーにがアンタンだよ、アンポンタン!俺らの仕事を見ろ!この歳で若い奴の下でこき使われ、木賃宿に帰れば焼酎を飲んで寝るだけ。こんな生活がてめぇにわかるとでも言うのか?このコンコンチキが!

 主婦 まぁ、まぁ、そんな失礼なこと言っちゃ駄目よ。あんたなんかお酒が飲めるだけ幸せじゃないの。私の亭主なんかタバコも酒も節約してもらって生活なんかギリギリよ。

 日雇い人夫 何言ってやがる。そんなこと言って、てめぇは、こんな安酒場で酒飲んでやがるじゃねぇかよ!

 主婦 そうでもしなけれりゃ、やってられないのよ。あんたは知っているだろうけど亭主は長男のために肝臓を移植して退院した後ありつけた仕事の給料は前の三分の一よ。家のローンだって残っているし、我が家の家計は火の車なのよ。

 日雇い人夫 そうだったな。それは確かにおっしゃるとおりだ。すまねぇ。

 紳士 そうなのですか。それは本当に大変ですね。お察しします。

 日雇い人夫 なーにが、お察ししますだ。バカヤロウ!テメェなんかに佳代ちゃんや俺の苦労がわかってたまるか!このインテリ野郎!

 主婦 まぁ、まぁ、ロンちゃん、この方だって立派な身なりで、こんな安酒場で飲んでるなんて何か訳ありなんだろうから。

 紳士 いえいえ、私はこんな雰囲気が好きで来るだけなんですよ。

 日雇い人夫 なーにが、こんな雰囲気だ、ぬかしやがれ。

 主婦 でも本当に大変な時代になったものね。

 紳士 そうですね。私も37年勤めた会社を昨年辞めて今ではアルバイトで凌いでいる生活なんですよ。子供たちは独立していますから女房と二人暮らしです。女房は友達と温泉旅行だ、何とかのコンサートだとかで楽しそうに出かけていきますが、私のような仕事人間は退職しても何をやったらいいのか酒を飲んでいるしか楽しみがないのですよ。

 主婦 わかるわ。私の亭主も真面目人間で仕事ひとすじ。お酒くらいしか息抜きはできない人なのよ。

 日雇い人夫 そうだな。トシちゃんは、そういう男だ。しかし、いい亭主じゃねぇか。優しくしてやれよ。あんた達はいい夫婦だぜ。

 紳士 そうなのですか。お二人はいい飲み友達なんですね。

 日雇い人夫 なーにが、いい飲み友達なんですね、だ。バカヤロウ!よーし、それじゃぁ、もう一軒行こう!俺の驕りだ!

 主婦 ロンちゃん、行く行く、本当に驕りよね!

 日雇い人夫 あったりめぇだ。オイ、そこのオッサン、おめぇも来い!

 紳士 えっ、私も、よろしいんですか?

 主婦 いいんですよ。いつも、この調子なんですから。

 日雇い人夫 なーにぃ、クダクダぬかすんじゃねぇ、さぁ、行くぞ!

 師走の夜の街へ三人は消えていった。外では聖夜を飾る電飾と音楽が鳴り響いていた。

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