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2009年6月16日 (火)

憑依あるいは感応道交

 グールドがピアノに向かう姿はあたかも作品が書かれた動機や意図を読み取り演奏に没入しているが如しである。他のピアニストにもよく見かける過剰な感情移入とはグールドの姿は似て非なるもの、とアカショウビンは解する。それはグールドというピアニストの持つ深い知性によるものと思われるからだ。辻井氏の演奏テクニックとピアニストとしての評価は今後の精進次第であるけれども、音楽界だけでなく「社会的」に評価され「歴史」に残る演奏者になるためには、グールドの語りや書いたものから解する「知性」が必要と考える。

 もちろん、そんなものは必要ない、曲芸師のように何でも演奏できる芸があればよいのだ、といった反論も聞こえる。しかしピアニストに限らず一芸に秀でた人に他の人々が共感する本質的なことは、たとえそれが十分には理解できなくとも、その人が持つ、独特のと言うべきだろうが、彼の知性なのではなかろうか。

 若い頃もそうだが晩年のグールドが猫背で鍵盤に異様に近づいてピアノに向かう姿を見ると、それは何かが憑依したようである。それはバッハでもあり、シェーンベルクでもあるだろう。しかし、その姿を見て思うのはグールドはバッハやシェーンベルクと感応道交している、という思いだ。「感応道交」とは仏教用語だが、対象と意思疎通する事と言ってもよいだろう。ピアニストの場合、楽譜を介して作曲者と、そのような関係に至るという事だ。

 入魂の演奏とか書物を眼光紙背に徹し読み抜く、とはそういう経験を指すのだろう。著者の真意にまで達して読む、ということは私たちは日常では稀だ。多くは事の表面だけをなぞるだけだ。厳しい眼で見れば辻井氏の一つのコンクールでの優勝は、次のステップへの入り口にしか過ぎない。今は熱狂している聴衆やマスコミも、しばらくすれば潮が引いたように関心は薄れる。しかし実はここからが本当の意味での茨の道だろう。或る一部の人々が到達する「高み」という境地が有るように思われる。音楽家の場合、高い演奏技術に習熟すれば、そこへ到達する条件を獲得するのではないだろうか。門外漢には、ため息をつくしかないが、別の領域で試みてみよう。

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コメント

かれこれ20年近く前、在る哲学者が、絵は尽きるところ「色」と「品格」です。
凡庸な絵描きには、無いものです。
色は天性のも、品格は日々の生き方で培われます。
とわたくしの絵を見ながら言われました。
(私の作品をいいといっているのかどうかは分かりませんでしたが、、。)
あなたの「Chaos」 への試みは充分理解できます。とも

「何を言っているのか、そんなの当たり前じゃないの」とその当時至らないわたくしは心の中で思いましたが、アラカンになった今考えますに、氏の言葉の深遠<真意にまで達して>を感じてその通りだと述懐します。
大変有り難い言葉でした。

「品格」と言うのは、ここでアカショウビンさんが、仰っています「知性」と合い通ずることだと思いました。

投稿: 若生のり子 | 2009年6月19日 (金) 午前 11時15分

 若生さん、コメントありがとうございます。 

 >かれこれ20年近く前、在る哲学者が、絵は尽きるところ「色」と「品格」です。凡庸な絵描きには、無いものです。色は天性のも、品格は日々の生き方で培われます。とわたくしの絵を見ながら言われました。
(私の作品をいいといっているのかどうかは分かりませんでしたが、、。)あなたの「Chaos」 への試みは充分理解できます。とも

 ★「Chaos」 への試み、共感しますね。この世の混沌に形を与える、それは美術家でなくとも詩人にも音楽家にも「芸術」で創造を試みる人々に共通するものでしょう。

 >「品格」と言うのは、ここでアカショウビンさんが、仰っています「知性」と合い通ずることだと思いました。

 ★そうですね。「品格」は「知性」と響き合うように思います。その場合の「知性」は人間という生き物の独特な在りかたとでもいうものと共鳴しているように思います。科学や技術という領域での「知性」は時に一人歩きしますが、それを制御するのが「品格」というものなのかもしれません。このご指摘はさらに突き詰めて考えてみる深さを湛えているように思います。

投稿: アカショウビン | 2009年6月20日 (土) 午前 02時02分

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