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2009年5月 7日 (木)

濃淡ある時間

 病を抱える老母と暮らし人の老いの苛酷さを思い知る。しかし救いは寝たきりにもならず呆けてもいないことである。足が弱り、動きは南米のナマケモノという生き物といい勝負である。その不如意には気丈な本人が一番苛立っているだろうが、こちらもその動きにあわせるから実に面白くもある。老いるということはナマケモノという動物に近似するということ、それは新鮮な発見だ。

 こちらも人事ではない。先日、歯痛の激痛でたまらず近くの歯科医に飛び込んだ。しかし都内のかかりつけとはエライ違い。何と治療座について30分もほったらかしである。しかも設備の心もとないこと。口内の唾液をとるバキュームもおいていない。都内の医院とは呆れるほどの貧寒な治療器具。思わず昨年、ボケ老社長の横暴にキレて退社した時の光景が再現されそうだった(笑)。しかし美人の熟女事務員さんに免じて我慢、我慢(笑)。実に悠長で乱暴な治療に堪えたのである。

 そんな異郷での生活のドタバタから気分転換すべく連休の5日は難波という街へ。何と新宿や銀座並みの賑わいである。マスコミで喧伝される「不況」がウソのようだ。実にしたたかな生活感に溢れている。東京とは異なる活気に満ちている。大阪弁特有のイントネーションで、ありがとう、おおきに、の声が実に大阪である。そういった声の優しさと親密感は江戸弁にはあっても標準語にはない響きだ。そこには人の声の持つ奥深さを痛感する。しかしながら不況の現実はハローワークや区役所に行けば判然とする。失業者と就業者の対照はこういった場所で非情だ。本日もハローワークで担当者のおざなりな対応に腹をたてた見るからにヤンキーな二人組みの兄ちゃんが怒声を浴びせていた。ことほどさように難波の賑わいとハローワークの一幕にニッポン国の現実は進行している。その荒波の中にアカショウビンも生息しているわけである。

 アカショウビンは老母の歳まで生き長らえることはないだろうが、それは或る意味でさいわいなことである。身体は、あちらこちらにガタがきている。老母と共に生きる時間は、それほど残されているわけでもないだろう。その現実を、どれほど切実に受け止め生きられるか。それは老母の時間と共振しながら身心で体験する時である。そこには人の生きる時間の多様性も経験できる。それは恵まれた日常からすれば次元の異なる濃密な時間でもある。それは死を日常の中に取り込んだ時間ということもできる。人という生き物は死を事前に覚悟する存在である。その自覚は日常の些事のなかで埋没している。しかし近親やメディアで見聞する死に、人は忽然と己の生の儚さと貴重さを覚知する。それでも受け取り方は個々人で濃淡がある。この世に棲む日々の貴重さをアカショウビンは現在の苦境のなかで刻々と体験している。それはある意味で悦びでもある。その内実は恐らく他者には計り知れない。親子といえど他者である。しかし、それは独特な関係性である。他の他人とは異なる共鳴・共振が経験されるのが不可思議だ。

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コメント

随分と長く離れてお住まいになっていらっしゃったのですから、この度のお母様との日々を、その日常をどのように感じていらっしゃるのか想像しておりました。

>その現実を、どれほど切実に受け止め生きられるか。それは老母の時間と共振しながら身心で体験する時である。そこには人の生きる時間の多様性も経験できる。それは恵まれた日常からすれば次元の異なる濃密な時間でもある。

そうですね、、。
次元の異なる濃密な時間
意識の深さがないと感じられない貴重な時間
アカショウビンさんの感受性の強さ、それとモノゴトを相対化できる冷静な明晰さ。
恐れ入ります。

>親子といえど他者である。しかし、それは独特な関係性である。他の他人とは異なる共鳴・共振が経験されるのが不可思議だ。

同感です。
本当に不思議ですねあの感覚は。
月並みですがやはりそれが親子の血の繋がりなのでしょうか?実際母の血を貰ってわたくしが創られたのですから。
母とわたくしは、似て非なる性格ですし生き方なのに。
母のことは、母よりも分かることがあったのです。
他者であっても、仰るとおり、<他の他人とは異な>ります。

投稿: 若生のり子 | 2009年5月10日 (日) 午前 02時24分

 若生さん

 >母とわたくしは、似て非なる性格ですし生き方なのに。母のことは、母よりも分かることがあったのです。

 ★私は母の性格を継いでいるようです。これでも馬齢を重ね、随分温厚になった筈なのですが、最近の世相を見聞きしますと時に激します。
 本日は「母の日」で花を贈りました。ニコリと笑ったので気に入ってくれたのでしょう。

投稿: アカショウビン | 2009年5月10日 (日) 午後 11時17分

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