« 「おくりびと」異聞 | トップページ | 中原、引退 »

2009年3月 7日 (土)

阿波徳島の門付芸と部落の文化

昨日、このブログにも懇切なコメントを頂いている若生さんのご紹介で、「部落の文化・伝統芸能の夕べ 門付芸、舞の宇宙-祝福と予祝~小沢昭一と門付芸人を迎えて」という都内の明治大学会場で行われた公演と講演(対談)を見聞してきた。徳島県で伝承されている門付芸の実演は初めて見た。放浪芸や大道芸にも詳しい小沢昭一氏が来訪されるというので映画俳優としての氏の大ファンであるアカショウビンは悪天候ではあったが大いに楽しみにして駆けつけた。

 実に面白い実演と講演(対談)であった。第一部の実演では門付芸を受け継がれる中内正子さんと南 公代さんが「えべっさん」「大黒さん」「三番叟」を披露された。1960年以降は、ほぼ姿を消した阿波木偶(地元ではデクではなくデコと読むようだ)「箱廻し」の芸が実に面白かった。地元では4体の人形を収納した10kg以上もある箱を天秤棒で担ぎ女性二人が家々を訪問するのである。年明けの門付は徳島市内から吉野川流域の山間部まで、2カ月で700軒を超えるという。多い日は一日60軒。7年前に伝統芸を先代から受け継いだ中内さんと南さんは、最初の頃は関心のない家庭から追い返されることもあったそうだ。一度は消滅しかけた伝統芸能の復活は昨今での関心の広がりはともかく生易しいことではなかったであろう。NHKテレビでも紹介され反響のあった映像を挟みながら第一部の公演は行われた。それはコーディネーターの川元祥一氏によると被差別部落の歴史と密接に絡んでいる。第二部では小沢昭一氏と川元祥一氏がご両人の研究成果を通じて経緯を語った。

 川元氏は大学で部落学を講じておられるという。「部落学」という新たな学を唱えられる氏の論考もネットで読める。それは日本史の裏面史でもある。新鮮な論説であった。例えばケガレという語がある。映画「おくりびと」の中で主人公の妻が夫の仕事が納棺夫ということを知り、それを「けがらわしい!」と詰るシーンがある。それは昨今の表記では「汚らわしい」であろうが、死体に触れることを忌避する習俗からすれば「穢らわしい」という漢字をあてることもできるだろう。それは「納棺夫日記」の著者、青木新門氏が傾倒された親鸞の時代の言葉で言えば「欣求浄土厭離穢土」の穢であろうし、穢多・非人の穢であろう。ところが川元氏の説明によると「ケガレ」の正しい漢字は「気枯れ」であるらしい。気が枯れる状態という指摘は新鮮だ。気とは生気とも読める。穢れとはそういう状態ということになる。

 部落民の生業は獣を殺し、その皮革を商品化し購うなど一般大衆が忌み嫌う仕事である。牛や豚の屠殺の仕事なくして一般民衆の食生活は成り立たない。しかし、そういった仕事を国家や国民は被差別者にあてがい表の歴史から隠蔽してきた。それは貴族(宮廷)文化や政治史など文字で記述された日本史からは隠れた歴史であるというのが川元氏の主張である。しかし、それは社会の中で蔑視されながらも機能していたというのは事実であろう。川元氏は20年前に新潟県村上の部落で江戸時代初期から伝わる大黒舞を取材した。8年前に久しぶりに再訪すると舞を踊れる人々が激減したという。83歳になる女性に演じてもらう約束を取り付けた。ところが前日になって「踊れない」と言われた。理由は「それを踊ったら村に置かないって言われた」と言う。それは現在でも苛酷な差別があるという証である。被差別者の疎外感と憤り、怒りが充満していることを川元氏や小沢氏は研究の過程で体験されている。

  対談で小沢さんのお耳が遠くなっているのがわかるのだが、それを笑いにかえるのは芸人根性というものである。お二人のお話はもっと聴きたかったが短い時間では、ほんのサワリ程度だったのが残念だった。しかし、そういう放浪芸や大道芸を生業とした芸人の多くが被差別者として国家や国民から蔑視されながら生き永らえてきた事実を知ることは実に鮮やかな歴史の裏面というか隠蔽された民衆史というものと出会う経験であった。そこからは人間という生き物の孤独と孤絶という在り方にも思い当たる。ハイデガーの独特な概念である「現存在(現有)」として論じられる人間という生き物は有という世界の中で孤独を堪える生き物なのだ、という洞察とも通底しているようにも思われる。差別され生き死んでいった人々や先の大戦で国家のためと死んでいった人々、病で死を宣告された人々、国家から死刑を宣告され死を覚悟している人々、親から見捨てられたストリート・チルドレン、それらの人々の孤独・孤絶は他人事ではない。アレコレと考えさせられた企画だった。

|

« 「おくりびと」異聞 | トップページ | 中原、引退 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/111335/44268229

この記事へのトラックバック一覧です: 阿波徳島の門付芸と部落の文化:

« 「おくりびと」異聞 | トップページ | 中原、引退 »