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2009年2月11日 (水)

邦画の評判作2本

最近、無職の身ながら憑かれたようにフラフラと映画館通いが続いている。先週は洋画の秀作・佳作・傑作に出会って気力を充填された思いだった。本日も池袋の新文芸坐へ。今回は邦画の2本立てである。キネマ旬報や各映画コンクールで入賞したという評判作だ。アカショウビン期待の阪本順治監督「闇の子供たち」と初見参の橋口亮輔監督「ぐるりのこと。」である。休日で混むことは必至とヨミ、午前9時40分からの初回に駆けつけた。すると何と、行列である。久しぶりに2番館での行列を見た。なるほど、それほど評判の作なんだなと期待も高まる。

最初は「ぐるり~」。なかなか好い展開。少し冗長でもあるが、マッタリ感は悪くない。キネ旬2位、報知映画賞 最優秀監督賞らしい。ふ~ん。ひと組の夫婦とそれぞれの職場・家族・親戚の様子を丹念に撮っている。脇役陣も固めている。評価は観ながら納得した。倍賞美津子(以下、敬称は省かせていただく)が素晴らしい。円熟した大人の味に唸った。挟み込まれるエピソードも、それなりに練られていて飽きさせない。しかし2時間半近くの上映時間は昨今の邦画としては異例ではなかろうか。しかし、よくもたせたと思った。

次に「闇の~」である。2本とも予告で見ているから、それなりの展開と予想はしていた。正直に言うと阪本作品は、それほど期待していたわけではなかった。しかし実に驚愕する話の展開で「ぐるり~」とは次元の異なる世界にグイグイと惹き込まれた。これは阪本監督の最高傑作ではないか、と固唾をのんだ。内容はタイでの幼児売春と臓器売買移植の話だ。原作は梁石日。硬派である。未読ではあるが暗澹たる事実に鋭く切り込んでいるのであろう。阪本監督も挑発・刺激されて映画化を決意したと推察される。終盤まで、これは世界に出しても通用する佳作だと感嘆した。ところが、である。最後の結末の意外性は物語の収束としては急でせっかちに過ぎた。何も銃撃戦まで描く必要があったのか。阪本監督得意のハードボイルドなのか。それにしても性急で違和感が残った。そしてエンディングで流れた音楽は桑田某である。アカショウビンは彼らの音楽が好きではない。理由は山ほどあるがここでは省く。とにかく、その歌が流れてきて、途中までは日本映画の傑作、世界にも通用する佳作・秀作が出現したと感嘆したのも束の間、それは泡となった。

桑田ファンにはたいへん恐縮だが、あの終曲は、それまでの話の内容の重さ、深さとは異次元のレベルである。まったくそれを支えきれていない。それどころか安直な歌詞と軽薄なノリの曲を作品のテーマの重さと作品のなかで比較してみたのだろうか?そうだとしたらアカショウビンには映画とは映像と音の掛け算だという誰かが言った定義を見事に裏切っているとしか思えない。先日は評判の「チェ 39歳 別れの手紙」(スティーヴン・ソダーバーグ監督)も観た。内容は平板に過ぎて期待外れだったが、終曲の女性ヴォーカルと生ギターの音楽は素晴らしかった。そのあとはクレジットが流れる間、音楽はない。それは一人の革命家の死を悼む心情が逆に反映されていた。場合によっては音楽などつけないほうが内容に見合う効果を醸し出すことがあるのだ。映画監督は、そこまで配慮しなければならない立場なのではなかろうか。内容が素晴らしければ素晴らしいほど、作品に見合った音楽が添えられるべきである。

この作品の導入部から話と映像の衝迫力は凄い。監督も俳優陣もスタッフも並々ならぬ気迫で取り組んでいることがビシビシ伝わる。それが最後の最後で唖然となる。映画の最後の映像と音楽は作品と見合い、それを支えなければならない。そこに監督は繊細のうえにも繊細に周到な配慮をすべきだ。しかし腸が煮えくりかえる思いの映像と音楽の愚劣なコラボレーションになってしまった。これは監督の責任である。制作や音楽担当者の意見や提案はあっただろう。多くの関係者たちや聴衆も桑田が好きだろうから採用したのかもしれない。しかしへそ曲がりで偏った音楽趣味のアカショウビンには耐えられなかった。原作は読んでいないがラストに至るストーリー展開も唐突で米国の猟奇映画紛いのどんでん返しだ。もっと違う終わり方があったと切に思う。しかしオーケーを出したのは監督である。それに腹がたつのである。アカショウビンは以前にも書いたように阪本順治という才能は日本映画界の中で高くかうのである。幾つかの佳作・秀作も撮っている。「武闘派」と評してもよい気合いは共感するところ大なのである。しかし最後の最後に間違うのは将棋でいえばトン死のようなものだ。勝てば生涯の名局が致命的な見落としで負けにする。この作品はそういうものだ。9割は傑作。音楽だけに限定しても1割がダメにした。

少し酷な評になってしまったが、次回は「チェ 39歳 別れの手紙」の感想も書いておきたい。ミクシイやブログでは話題になっている作品だ。これにも賛同と文句がある。

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