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2008年12月25日 (木)

今年観た映画ベスト10

 今年を振り返り面白かった映画を想い起こし記憶に留める。ただし必ずしも今年発表された作品とは限らない。劇場とDVD、旧作・新作が混在している。暮れも押し詰まり暢気にしてもいられない。ミクシイというSNSではコメントを入れなかったが、何でこんなのを?と訝る御仁もおられると思うので注記する。

 「蜂の旅人」(テオ・アンゲロプロス監督)②「紅夢」(張 藝謀《チャン・イーモウ》)「この自由な世界で」(ケン・ローチ監督)、④「告発のとき」(ポール・ハギス監督)⑤「靖国YASUKUNI」(李 纓《リ・イン》監督)⑥「イチかバチか」(川島雄三監督)⑦「夏至」(卜ラン・アン・ユン監督)「長江哀歌(エレジー)」(賈樟柯《ジャ・ジャンクー》監督)⑨「西の魔女が死んだ」(長崎俊一監督) ⑩「落語娘」(中原 俊監督)

 ①春に北千住の自治体ホールで観た。昨年その会場では同じ監督で長年未見だった大作「旅芸人の記録」をやっと観ることができた。その時は二日酔いで途中不覚にも居眠りしてしまった(笑)

 作品の内容は、かつて教師として家族をもち人並みの生活をしていた男が或るとき家族を捨て衰退の一途の養蜂家になり各地を移動して暮らす姿を描く。導入部は教師業からすれば中年男には苛酷ともいえる生業にうらぶれた風情を醸しだす中年男が娘の結婚式に出席するところから。結婚式での夫と妻、父と娘、母と息子の姿、親戚や友人たちの姿が織り込まれたあと物語は旅に出た男の姿をテオ・アンゲロプロス独特の映画用語でいう「長回し」で撮り続ける。その間にはヒッチハイクで拾った若い家出女との出会いと別れの逸話も挿入され老いた男と若い女の性的魅力が対照的に描かれるのが哀れである。女と別れた男は最後に子供の頃に遊んだ土地を訪れ思い出を呼び起こす。そして自らの生業としている蜂を解き放ち彼らに刺されて死ぬ。

 こんな要約では作品の豊饒な世界の何の説明にもならないのは承知のうえ。アカショウビンは書き留めることで記憶を呼び起こし作品の各場面を想起しているのをご理解されたい。

 ②レンタルビデオで観た。ぜひともデジタル修正してDVD化してほしい張 藝謀の傑作である。物語は昔の中国の金持ちの商人の愛妾として一生をおくった女の生を辿るだけの簡素なもの。しかし今や世界的な人気監督に駆け上がった天才の才覚が画面の端々に溢れていることは場面に向き合わないと感得できない。日本人からすれば異文化の風習と、中国人からすれば描かれた時代の政治的背景や空気まで監督は吹き込み得ているのではないか。実に完成度の高い出来栄えに感嘆する。絶妙な色彩感覚を持つ張 藝謀の面目躍如。主演のコン・リーが美しく気高く哀れだ。

 ③ロードショーで渋谷の劇場で。監督は英国の「社会派」と見做してよい作風を主張として有する映像作家である。英国からのアイルランド独立戦争に身を投じる少年達の悲劇を描いた「麦の穂をゆらす風」(2006年)という作品に感嘆しファンになった。英国でのロシア移民たちの生活を描いて現実の苛酷に暗澹となる。かつてのドイツにおけるトルコ移民問題が今や英国でロシア移民問題となり現実化している現状を告発している。前作と比べると現在の社会問題を扱っているためドキュメンタリー的要素を盛り込み工夫するところに才覚を感じる。

 ④これもロードショー館で。主演のトミー・リー・ジョーンズとスーザン・サランドンの名優の演技に感服。イラク戦争の実態の一端を、かつてヴェトナム戦争での米国の横暴と悪事と罪を暴いた諸作に連なる作品とも見做せる。現実はこんなメロドラマタッチでは済まされないだろうが。

 ⑤このブログでも書いたので繰り返さない。

  ⑥天才川島の遺作。伴淳三郎が内田吐夢の傑作「飢餓海峡」での刑事役を彷彿させる名演技で見事。「喜劇映画作家」と分類される川島が「社会派」として新たな展開が期待される作品だが筋萎縮性側索硬化症(米国の有名野球選手、ルー・ゲーリッグが罹患して亡くなったため当時はゲーリッグ病とも呼ばれていた)という難病で早世したのが惜しまれる。

 ⑦実にしなやかで繊細でアオザイのように鮮やかなヴェトナム映画だ。戦後の荒廃から30余年、蓮の花のように美しい作品が生まれたさいわいを言祝ぎたい。処女作「青いパパイヤの香り」(1993年)も素晴らしい。

 ⑧生まれた村がダム建設で水没してしまった女性の或る頃の生き様を描いた作品。主演女優の憂い顔が切ない。

 

 ⑨平日の新宿の映画館は女性たちで満席だった。なるほど長崎監督の女性的ともいえる細部にまで気配りがゆきとどいた演出の賜物であると納得した。原作は読んでいないので比較はできないが映画は素晴らしい出来栄えと感嘆した。主演のサチ・パーカーの姿がえもいわれぬ気高さと美しさを醸し出している。祖母と孫娘の関係の理想はああいうものであろうと思う。DVDで観直してみよう。

 ⑩中原監督の円熟ぶりが実感できる作品だ。このような中堅ベテラン監督の存在は日本映画界の将来に幽かな光を期待させる。主演の女優の熱演もいいが、それを上回るのが津川雅彦の怪演だ。落語はきらいだという諸氏にも楽しめる仕上がりではないだろうか。落語が好きなら更に味わい深く楽しめる。

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