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2008年12月28日 (日)

今年読んだ本ベスト10

 ミクシイで10冊を挙げたがコメントは長くなるので敢えて入れなかった。順位はミクシイ用に少し作為したが内容をそれほど吟味して順位をつけたわけでもない。まぁ、とにかくコメントしながら作品を想い起こしてみよう。

 ①「日本侠客伝 マキノ雅弘の世界」(山田宏一)

 池袋の新文芸座で11月23日から12月6日まで「マキノ雅弘生誕百年記念上映会」が行われ14日間で29本が公開された。マキノが生涯に撮った作品は260本余というから約一割に過ぎない。そのうち8日間通い17本を観た。お目当ては「次郎長三国史」全9作。昭和27年の第一作から評判を呼びシリーズ化されたのだろう。3年間に9本というから人気のほどが偲ばれる。“早撮りマキノ”の面目躍如である。

 山田氏の著作は、その時に新文芸座の売店で購入した。マキノ監督や森繁久彌(以下敬称は略させていただく)へのインタビューが実に面白かった。藤 純子(現在は富司純子さんだが)を時代のヒロインに育て上げていくエピソードや高倉 健他の当時の姿が彷彿としてたまらない。

 ②「非神秘主義-禅とエックハルト」(上田閑照)

 このブログで既に書いたけれども上田氏の禅やドイツ哲学、ドイツ神秘主義者たちへの造詣の深さと踏み込みかたがわかる渾身の作である。碩学が生涯の仕事を後人のために編集している。鈴木大拙のエピソードなど初めて知る事実も多く実に興味深く読んだ。

 ③「在日一世の記憶」(小熊英二・姜 尚中 編)

 今や死に絶えようとしている在日一世の人々へのインタビューと自ら綴った文章が胸を打つ。正史には現れない個人の歴史、人生の叫び、歎き、歓び、慟哭、告発が行間に溢れている。心して読まねばならぬ声の集成である。

 ④「ブレーメン講演とフライブルグ講演」(ハイデガー)

 戦後にハイデガーが公に姿を現した時の言説が読み取れる。繰り返し精読し考察すべき講演だ。平凡社から出版されている「形而上学入門」(川原栄峰訳)も繰り返し読み新たな発見がある。今年は「芸術作品の根源」(関口 浩訳)も出版された。これも面白く読んだ。翻訳の微妙な相違は創文社全集と比較すると著者の意図はほぼ掴める。ゴッホの「靴」に対するハイデガーの迫り方は小林秀雄のゴッホ論と対照させても面白い。「ブレーメン講演~」は戦後ドイツや世界の現状をハイデガー流にギリシア以来の「技術」に対する本質論を展開したもの。現在の世界の現状を見渡しても少しも色褪せぬどころか鮮やかな視角が切り拓かれている。今を生きる私とは何者なのか?という思索と反響させて考察していくべき講演だ。次々と公刊されている創文社の新全集と共に読み解きながらハイデガーの全貌を明らかにしていきたい。

 ⑤ 「三島由紀夫の死と私」(西尾幹二)

 著者はアカショウビンが現在の保守論客の中では未だに関心を持って著作に幾らか眼を通す評論家というより学者である。ニーチェなどドイツ哲学に集中すればよいのにチンピラのような連中と同調しテレビでは道化の如き姿が情けない。しかし新著は面白く読んだ。氏は三島が割腹したときドイツ帰りの新進批評家として登場している。三島への批評は当時面白く読んだ。時を経て当時は封印したという論考も収載している。その批評は今読んでも良質の批評として読んだ。

 ⑥「愛と痛み 死刑をめぐって」(辺見 庸)

 今年九段会館で行った講演の補筆版である。感想は講演後に書いたので繰り返さない。アカショウビンは講演を然と聴講したので興味深く読んだ。闘病生活の中での渾身の著作である。これほどの怒り、憤り、気概を持つジャーナリストは、この国にいかほどいらっしゃるのか寡聞にして知らない。テレビを見る限りアカショウビンは氏が「糞蝿」と唾棄する御仁が殆どなのではないかと邪推するのだが。

 ⑦「思想の危険について」(田川健三)

 有数の聖書学者がまとめた吉本隆明への痛烈な批判書である。オマージュが含意されているのが氏のスタンス。今や晩年を過ごされている吉本氏への氏の感慨も邪推されて面白く読んだ。

 ⑧「小高へ 父 島尾敏雄への旅」(島尾伸三)

 この作品も感想はブログに書いたけれども、昨年亡くなられた、著者の母親のミホさんにも言及しているので興味深く読んだ。それにしても行間に読み取られる親子の愛憎が痛ましくも切ない。

 ⑨「日本の文學史」(保田與重郎)

 保田ならではの日本文学史である。「右翼」と称される人々だけでなく日本という国土に生まれた「国民」の中核とも見做せる思考と思索が展開されている。上記の辺見氏らとは対極に立つ批評家だが、この言説を読み解かなければ国史も天皇も三島も理解はされないだろう。

 ⑩「故郷七十年」(柳田国男)

 小林秀雄が講演で引用している箇所を確認するため読んだ。柳田の神秘体験ともいえる少年時代のエピソードが興味深い。小林は柳田を引用し大嫌いな花袋らの自然主義作家を切って捨てている。小林の気迫溢れる語勢が凄い。 

昭和498月5日に小林秀雄は㈳国民文化研究会主催の夏季学生合宿教室で柳田国男の「故郷七十年」を引用して話している。

柳田は明治20年秋、13歳の時に茨木県の布川というところに開業した新婚の兄をたよって住んでいた。そのころの話である。(以下、抜粋)

布川にいた二ヶ年間の話は、馬鹿々々しいということさえかまわなければいくらでもある。何かにちょっと書いたが、こんな出来事もあった。小川家のいちばん奥の方に少し綺麗な土蔵が建てられており、その前に二十坪ばかりの平地があって、二、三本の木があり、その下に小さな石の祠(ほこら)の新しいのがあった。聞いてみると、小川という家はそのころ三代目で、初代のお爺さんは茨城の水戸の方から移住してきた偉いお医者さんであった。その人のお母さんになる老媼を祀ったのがこの石の祠だという話で、つまりお祖母さんを屋敷の神様として祀ってあった。

この祠の中がどうなっているのか、いたずらだった十四歳の私は、一度石の扉をあけてみたいと思っていた。たしか春の日だったと思う。人に見つかれば叱られるので、誰もいない時、恐る恐るそれをあけてみた。そしたら一握りくらいの大きさの、じつに綺麗な蠟石の珠が一つおさまっていた。その珠をことんとはめ込むように石が彫ってあった。後で聞いて判ったのだが、そのおばあさんが、どういうわけか、中風で寝てからその珠をしょっちゅう撫でまわしておったそうだ。それで後に、このおばあさんを記念するのには、この珠がいちばんいいといって、孫に当る人がその祠の中に収めたのだとか。そのころとしてはずいぶん新しい考え方であった。

 その美しい珠をそうっと覗いたとき、フーッと興奮してしまって、何ともいえない妙な気持になって、どうしてそうしたのか今でもわからないが、私はしゃがんだまま、よく晴れた青い空を見上げたのだった。するとお星様が見えるのだ。今も鮮やかに覚えているが、じつに澄み切った青い空で、そこにたしかに数十の星を見たのである。昼間見えないはずだがと思って、子供心にいろいろ考えてみた。そのころ少しばかり天文のことを知っていたので、今ごろ見えるとしたら自分らの知っている星じゃないんだから、別にさがしまわる必要はないという心持を取り戻した。

 今考えても、あれはたしかに、異常心理だったと思う。だれもいない所で御幣か鏡が入っているんだろうと思ってあけたところ、そんなきれいな珠があったので、非常に強く感動したものらしい。そんなぼんやりした気分になっているその時に、突然高い空で□がピーッと鳴いて通った。そうしたらその拍子に身がギュッと引きしまって、初めて人心地がついたのだった。あの時に□が鳴かなかったら、私はあのまま気が変になっていたんじゃないかと思うのである。(昭和34年のじぎく文庫p3536

アカショウビンが巣鴨の三百人劇場で聴いた小林秀雄の講演で、氏は、その文章を張りのある声で音読した。昭和49年の講演テープは同じ気迫で、やはり柳田の文章を引用している。

奥さんを亡くし14歳になる子供と他からもらった女の子がいる炭焼きの話である。彼は生活のために山で炭焼きの生業としている。作った炭を麓の村で売りに行くが生活は楽ではない。炭は売れない。売れても米一合にしかならない。ある日も手ぶらで帰ってきた。そうすると子供たちの顔を見るのが恐ろしいので、こそこそと部屋に入り昼寝した。ふっと眼が覚めると音がする。そうすると子供が炭焼きの鉈を研いでいる。それを女の子が見ている。そのとき夕日が一面にあたっていた。そして子どもたちは近くにあった丸太を枕に横になり「おとう、俺たちを殺してくれ」といった。そのときクラクラと眩暈がしてわからなくなり鉈で子どもたちの首を切ってしまった。そして自分も死のうとしたがうまくいかないで里でうろうろしていたところを警察(巡査)に捕まった。この話を柳田は序文に代えた。

この逸話に小林は鋭く反応した。講演で聴いた小林の語勢は気迫に満ちていたことをアカショウビンは今でも鮮やかに想い起こす。それは氏が当時の時代状況の中で並々ならぬ意識で、その文章を読んだ事が直感されたからだ。

49年の講演テープの中で小林は次のように語っている。

そのころ文壇はつまらん心理的な小説を書いて自然主義文学が威張っていた頃に柳田さんは苦々しく思い「何をしてるんだ諸君」と柳田さんは言いたかったのだ、と僕はそう思う。人生とは囚人の人生にあるようないくつもの悲惨なことを抱えているものだ。つまらない恋愛小説を書いて、それが人生の真相だと言っているものに真実などはない。その子供は、こんな健全なものはない。

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