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2008年11月27日 (木)

松井冬子と上野千鶴子

 今年4月20日にNHKテレビで松井冬子という新進画家の特集というのかドキュメンタリー番組を放映していた。実に面白く驚愕し凝視した。作者が作品を描く場面や解説で登場した上野千鶴子のコメントも興味をそそった。作品についてはテレビ映像を通してであるから詳細は述べられない。評判の作品の主題は幽霊や内臓をさらけ出した女性である。上野によると「自傷系アート」というジャンルになるらしい。テレビも大きな反響があったらしく画集やDVDも販売されて好評とは悦ばしいかぎり。いずれ展覧会でお眼にかかれる時が楽しみだ。

 そのお二人が「婦人公論」12月7日号で対談している。フェミニスト最強タッグの面目躍如、と言えればよかったが物足りなさも。もっと話は盛り上がっただろうに編集部の意向がはたらいているのか、お行儀よくまとめてしまった、という読後感は残念。NHKの番組でもカットされたかなりの部分があったはず。対談では、それでも、そのような箇所への若干の説明やテレビではカットされても文章では公開した、といったところも確認できたのは収穫と思った。

 NHKTVでも紹介されていた筈だが「浄相の持続」という平成16年の作品がある。両眼をこちらに向けて優しげに見開いた女が横たわっている。その胸下から腹部は切り開かれている禍々しい作品だ。この作品は、松井が恋人から受けた暴力のトラウマ解消のための残虐性だ、と評されたらしい。それは違う、と反発するように上野は「あなたの絵は抽象度が高く、主題が昇華されています」と語る。

 松井も上野も母親ゆずりの女自立主義者(こんな術語があるか知らないが)のようだ。そのためでもないだろうが男からは暴力も差別も経験していることをさらりと話している。さすがである。対談の様子はお二人のモノクロームの写真が付いている。それでは色合いがわからないけれども上野が落ち着いた歳相応(これは賞賛です。怒らないでね上野先生)の和服。松井は恐らく艶やかな白であろう。テレビでも白が鮮やかで颯爽としていた。お二人の様子は少しお澄ましだったがナカナカよろしかった。

 テレビで上野が松井のことを語るなかで「ジェンダー」という術語を使っていた。アカショウビンは、それが上野流のインテリ臭がして不満だったことは、このブログで書いた。それに類した批判を業界や周囲から受け取ったのであろう。この対談では「何もかもジェンダーに回収していると批判された」ことを明かし、それについては「『男女の問題』と表現すればわかりやすかったかもしれませんが、女性であることの苦悩こそ松井さんの主題です」と応えている。アカショウビンはフェミニストではない。社会の中で知らず差別の側に位置していることもあるだろう。男である特権を無意識に享受しているのであろう。同じようなアホ男は大学教授の中にも日本国という近代国家の中にも厳然として残っているという事実は脳裏に刻ませていただく。

 

 フェミニズムは若き上野たちが駆使して論壇を風靡した業界用語の如きものだった。昨今ではあまり聞くこともなくなった。そのころも重要なテーマだっただろう<性>がセックスやセクシュアリティ、ジェンダーというカタカナ語と共に飛び交い業界用語がいつの間にか大新聞やテレビでも流通するようになった。飛びつくのも早いが飽きるのも早いのがマスコミである。談笑のなかで上野が「私たちの世代から男女関係は変わっていないんですね・・・」と語りかけ、「若い女も避妊してくれと言えない」と述べ、「セックスは対等でも妊娠はまったく不平等。中絶では全部女性が傷を負い、ズタズタになる」と述べる。今の若い男どものどれくらいにこの事は理解されているだろうか?今となっては性機能が極度に減退し生殖能力さえあるかどうか覚束ないアカショウビンには幸か不幸か関係ない話であるが。

 この対談で初めて知った事は次の通り。松井が4年も浪人して入学した東京芸大という国立大学の日本画クラスの募集人員は25人。松井が合格した時の受験者は700人。そのうち何と女が600人という。ところが合格者は男13人、女12人。これは日本という国家の差別構造の一端である。男女雇用均等法などという制度の実態も同じようなものだろう。現場には善良な教師も多くおられることではあろう。しかし社会構造の中で国家の将来を決定する「教育」の場で国立大学の実態はかくの如し。時の首相は己の無学を含めて恥を知るべきである。以上、敬称は略させて頂いた)                      

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