« 歴史の彼方 | トップページ | 秀作「告発のとき」 »

2008年7月 6日 (日)

私は目と心も使って解釈する

 昨日、上野の国立西洋美術館で開催されている「コロー展」を観てきた。梅雨が明けたような陽射しにも恵まれたのは幸い。先日から飲み続けたワインが残り二日酔い状態だった。しかし入場料1500円分を無駄にも出来ない。お目当ての「真珠の女」と「青い服の婦人」だけは心底に刻むぞという覚悟で地下の会場を漂い続けた。

 二作を何度か見たあと、展示作品をひとつひとつ丹念に視た。画家の初期作品から晩年までを半日で味わい尽くすのは無理というものである。しかも二日酔い。しかし傑出した画才に正面する幸せは実感した。人間とはかように人生を過ごし何事かを成し遂げることができる生き物である。

 晩年の人物画の代表作に至るまでコローという画家が執拗に描いたのは風景である。そのなかに、時にひっそりと神話の人物や土地の住民が描かれる。前半生の画家が視つめていたのは、自然とその中に慎ましく存在する人間という生き物だ。それが後半生から晩年の作品では個別の人間を凝視するようになる。

 「ミューズ―歴史」と名づけられた作品のモデルは「真珠の女」と同じ女性だ。その憂いを帯びた表情は「真珠の女」の何か〝永遠〟を見つめているような達観した表情とは異なる人間的な感情を醸し出している。また「身づくろいをする若い娘」の警戒心に満ちた表情の描き分けが画家の視線の深さを現わしているように思う。

 「真珠の女」の髪の艶やかさは画集で見てもわからない。それは昨年視たフェルメールの「牛乳を注ぐ女」の圧倒的なオーラとも共通する。

 「私は目と心も使って解釈する」とはコローの言葉である。「思い出(スヴニール)」という、画家の現実の経験のあとにアトリエでの想像の中に存在する対象を表象した作品に、その言葉の実践がある。「私は自然の震えを描こうと努めている」という言葉は自然と人間と自らの観念まで含めた〝存在〟に対するひとりの画家の至言と解する。自然も人間も観念も正しく「震え」ながら存在しているのだ。

 「コローが追い求めているのは、具体的な形態ではなく、観念である。彼は詩人であり、他の詩人たちに呼びかけているのである」という評がある。それは画家の本質を言い当てているようにも思える。それをさらに一歩踏み込んで言い換えるなら、画家が追い求めているのは存在の不可思議であり、画家は画像で存在を思索した。

 「山羊飼いのいる風景」(1837年)は霊的な領域に踏み込んでいるとさえ思われる。そこで人間は自然の中に慎ましく動物たちと生きる存在である。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

|

« 歴史の彼方 | トップページ | 秀作「告発のとき」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/111335/41756850

この記事へのトラックバック一覧です: 私は目と心も使って解釈する:

« 歴史の彼方 | トップページ | 秀作「告発のとき」 »