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2008年4月 2日 (水)

十年撮りためた映像

 先日の新聞報道でも話題になっている映画「靖国」を撮った李 纓(リ・イン)監督は、十年間撮りためた映像を123分にまとめたという。また毎日新聞で制作の動機を次のように述べている。南京大虐殺を否定する趣旨の集会に参加し、「日本兵の名誉回復を熱心に訴える人々の姿に衝撃を受け、理由が知りたくて靖国神社でカメラを回し始めた」と。また中国から日本に来た理由は、大学で文学を学んだ後、国営中国中央テレビに入局、チベットの伝統芸能祭の復活を追ったドキュメンタリーなどを制作したが、中国での報道に限界を感じて退局し、89年に来日した、と紹介されている。

 この作品が上映中止にまでなった騒動の切っ掛けは、国会議員の稲田朋美議員をはじめ自民党の保守派議員たちが2月12日に「映画の内容を確認したい」と問い合わせたことに端を発すると新聞記事は解説している。稲田氏は「靖国神社が侵略戦争に国民を駆り立てる装置だったというイデオロギー的メッセージを感じた」と論評したとも。

 アカショウビンには、稲田氏の音頭とりとその言動が、作家の曽野綾子氏が沖縄集団自決に対して行う言動(著作)と重なって仕方がないが錯覚であろうか?大江健三郎氏の裁判レポートや先日の判決報道の新聞記事に眼を通した限りでは曽野氏の名前も著作も出てきていない。しかしネット上や一部の論壇誌では大きな話題になっており興味深く見守っている。この「有識女性」たちが先頭に立って、あるいは立たされて一群の人々を督促する姿がアカショウビンには何やら疎ましいのだ。そこに感じるのは思いあがりと愚鈍である。それは少し説明を要することだが今は措く。

 それはともかく、これだけ保守派や右翼が過激に騒ぐのなら益々観たくなるのが野次馬根性というものである。上映中止を決めた諸劇場の経営者のへっぴり腰も情けないが、作品が「映画」として評価できるのであれば能天気な国会議員などは放っといて、観たい人たちに見せて商売するのが興行師の商い根性と心意気というものであろう。

 毎日新聞に使われていた映画のワンシーンは映像的にナカナカ見事なカットである。「イデオロギー的メッセージ」はともかく、アカショウビンは面白そうな「映画作品」として観てみたいと思う。右翼の被害にあったという作品、「ミンボーの女」(1992年 伊丹十三監督)も「南京1937」(1998年 呉子牛監督)もそれなりに面白かった。後者のメッセージ性は、確かに「感じた」のではなく厳然とあった。しかしアカショウビン世代には懐かしい女優(早乙女 愛)も熱演していて興味深く観たのを思い出す。こちらは稲田議員と同じく衆議院議員の石井基議員が問題視し国会で取り上げはしたが公開中止にまで至らなかった「バトル・ロワイアル」(2000年 深作欣二監督)には深作はまた何を血迷ったのか、と呆れたが。

 ともかく、「反日」だろうが「反米」だろうが「反中」だろうが「反韓」だろうが「反朝」だろうが「映画作品」としてちゃんと仕上がっていれば作品は軽々と国境を超える。保守や右翼の諸氏が、それをどのように判断しているのかを知りたいものだ。

 いまだご壮健であらせられる、我が邦の異才にして偉大な、あの馬鹿馬鹿しくもシュールな日活無国籍映画の監督・鈴木清順翁によればメッセージ性のある作品(「靖国」の場合とは少し意味は異なるが)というのは「何かを言いたい映画」として一蹴される。しかし、翁の明察を敬しながらもアカショウビンは近いうちに是非観ておきたいと思うのである。

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コメント

こんばんは。
曽野綾子という人間は、亭主の三浦朱門とともに、昨日の辺見氏も言っておられましたが、どうも偏向しています。
言論を、一つ方向に、マジョリティのあるよい子、というか聞き分けの良い子の方向へ持って行こうとするように以前から感じています。

さて、ミクシの書評もどうにかしなければいけないのですが(笑)

投稿: ザッコ | 2008年4月 6日 (日) 午後 10時56分

 ザッコさん 曽野氏の著作は高校生の時に読んだ本(タイトルも忘れましたが)以来読んだことはありません。それが沖縄戦の生き残り軍人と結託して今回の大江裁判の裏で暗躍していた事はネットのブログで知りました。
 辺見氏の指摘は過激なところもありますが実に急所を抉って感嘆するところが多く私は共感します。

投稿: アカショウビン | 2008年4月 7日 (月) 午前 12時47分

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