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2008年1月 8日 (火)

新年の戒めと音始め

新年は、病んでいる人にも生を謳歌している人々にも容赦なくまた希望に満ちて訪れる。それはまた仕事や家事のマンネリに倦んでいる人たちにも。悲喜こもごも人間は今生を生きる。

昨年「たんば色の覚書 私たちの日常」を出版し壮健を知らしめた闘病中の辺見 庸氏の文章が暮れの新聞に載ったそうである。下記はあるブログで引用されていた抜粋。アカショウビンも全文は読んでいない。孫引きであるが辺見氏には失礼して引用させて頂く。

「病院の外の日常と接する窓のようなものは病室のテレビである。三食のたびに好きでもないテレビを見るともなく見た。娑婆で見る以上にそれは異様であった。ひたすらやかましく、執拗で、狂気じみ、一貫して浮薄であり、弱い者、貧しい者に寄りそうどころか、冷笑している節さえある。事の軽重を常にとりちがえ、消費とばか笑いと貪欲のみが煽られる。テレビ番組と実際の日常が同じではないにせよ、たがいに響きあって魂が堕ちつつあるのはまちがいない」

病者の言や良し。我が国人のともがらに嘆きと怒りの声はどれくらい届いたであろうか?アカショウビンもたまたまその記事を伝聞で知っただけである。賢人の戒めを腹におさめ我が呆けた日常にも公平に新年は訪れたことを言祝ごう。

さて、暮れに久しぶりに耳傾けたワーグナーのあと新年の音始めは斯くの如し。昨年の正月は楽しんだウィーン・フィルの「ニューイヤー・コンサート」を今年は見逃した。新聞を見ると指揮者はジョルジュ・プレートル。昨年のヤンソンスからすると老練な大先輩を起用したわけだが、まぁ聴き逃しても悔しくはないかと納得する。

しかし暮れにNHKで小澤征爾を特集したドキュメンタリー番組があったらしい。それを見逃したのは悔しかった。そこで気分を紛らそうと画策。小澤征爾という指揮者がどういう経過を経て現在あるのか?改めてアカショウビンなりに確認してみようと思い立った。本棚の奥から取り出してきたのは以前に購入したDVD。「歌え!全身で歌え!」という2004年に小澤の恩師である齋藤秀雄の没後30年を記念して作成されたものである。制作はテレビマンユニオン。二枚組みになっていて一枚目は弟子達の証言。齋藤の謦咳に接した者たちが語りの中で師の姿を浮き彫りにする構成だ。二枚目は2004年に長野県松本市で行われたメモリアルコンサートが記録されている。司会は筑紫哲也氏。

一枚目。恩師の薫陶と技術の習得を徹底して叩き込まれた弟子達が語る。齋藤秀雄というチェリストが教育者に転進していかに貴重な果実を生んだか。小澤征爾という世界的な指揮者が今あるのは本人の努力と才能の賜物である前に優れた教師の存在があったことが良くわかる。教え子たちの中でも特に小澤はそれを全身全霊で体現している。生まれは中国大陸でも実に浪花節的な日本人気質を多分に持っている人だ。

教え子たちは口々に桐朋学園で齋藤に教わった教育が如何に優れていて音楽を心身に叩き込まれたかを語る。その映像を観ると改めて教育の原点を見る思いがする。音楽を相手に伝えることのイロハを齋藤は教則本にしたが大事な事は言葉に出来ない。弟子達はそのことを自らの感性で受け止めプロになってからも自分自身で悪戦苦闘し血肉化していった。弟子達ひとりひとりの表情と言葉でそれを知ると教えの深さが理解できるような思いもする。楽器を通じて音を出し、それを聴衆という他者に伝える事の難しさを師と弟子たちは格闘とも葛藤とも言える遣り取りの中で教え学んでいったのだ。

音楽家たちは特訓を経て西洋音楽を叩き込まれた。その方法論は合理的で西洋でも実に見事に応用できた。その恩を弟子達は忘れることはないだろう。

ほかのブログでは正月に新宿で小澤ファミリーと遭遇したというコメントも読んだ。ところでアカショウビンの新年音始めはモダンジャズで。朝、目覚めて忽然と取り出したるは我が愛聴のピアニスト、レッドガーランド。昨年はビル・エヴァンス本が出版されたことに刺激されエヴァンスもよく聴いた。しかしピアノトリオで安心して音の流れに身を任せられるのはレッドガーランド・トリオである。バスのP・チェンバース、ドラムスのA・テイラーのリズムとメロディの転がしに心安らぐ。

今年は如何なる年になるらんと不安の中に幽かな光も探りながら愚考していこう。

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