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2007年7月10日 (火)

日々は泡の如し

 毎日が日曜日というのも飽きるというのでは困る、と独り言をいいながら時に不安にかられる毎日だ。希望と計画と現実はかくも異なる。日々は泡の如しである。古人は「小人閑居為不善」と洞察した。生計が保証されなくなり不安が全身に満ちてきて時に思い起こす箴言ではある。

 自宅に籠るつもりはなかったがダラダラと日常は過ぎる。読むのを楽しみにしていた本やCD、DVDも期待のいくばくも読んでいないし聴いていないし観ていない。古人の洞察に甘んじるのは悟空でしかないということである。せめてお釈迦さんの掌を触知したいと心の隅で衝動は蠢くのだが現実は泡だ。

 国内政治の混迷と迷走は見るに耐えない醜態を曝け出している。パキスタンの事件も民間人の犠牲を承知で突入した酷いものである。そのような世界の現状は以前とどれほど異なるのか。太平日本も、またぞろ「いつか来た道」をあれよあれよと言ううちに辿るのか?そこには新たなカーキ色の閉塞社会が待ち構えている予感に囚われるのはアカショウビンだけだろうか?

 それにしても戦後から現在までの「平和」は国民にとっても国家にとっても世界史的にみれば珍しい時空であろう。人も自然も、そして国家も変化する。人の変化、自然の変化、国家の変化の様態の時間経過はそれぞれ異なる。それを見晴るかす場所を私は果たしてどのように構築し維持し虚存へ移行できるか。それがアカショウビンの現在に課せられている問いである。

 ある禅者は「滅きたらばこれ滅にむかひて(仕ふ)べし。いとふことなかれ、ねがふことなかれ」と説く。しかし、それは果たして諦念なのか悟りなのか達観なのか?

  凡夫は韜晦する。

 先日、叔父が入院したという報を母から聴き千葉の病院へ行って来た。しばし前の仕事で何度か来た見覚えのある景色を懐かしみながらバスに揺られた。その病院の外観は都心の大学病院よりはこじんまりしているが中は廊下が広くガラス窓が大きく隔離されている息苦しさがなく、ゆったりとしている。4人入りの病室の簡素なシャッターで区切られたベッドに叔父はイヤーフォンを耳にしてパジャマ姿で弱々しく横向きにあちらを向いて寝ていた。腰を軽く掌でたたくとむっくりとこちらを向きぽかんとした表情のあと驚いたといった顔でゆっくり起き上がった。

 意識ははっきりしている。快活に話もする。電話で母から聞いた叔母の切羽詰った状態ではないことに安心した。しかし本人は腹を括っている。延命治療などしなくともよい、と女房と娘には言った、と淡々と話す叔父の視線は眼光もしっかりしていて未だ大丈夫だともふと思った。叔父は特攻隊で死ぬはずだったとアカショウビンが子供の頃に母は話していた。後に吉田 満の文章や島尾敏雄の小説を通し、その人生をアカショウビンも少しは想像の中で辿っている。70数年生きれば十分だろうが死は恐怖であろう。家族との別れに未練もあるだろう。娘も3人の子供の親になった。思い残すことは彼らの姿が消えていくということだ。しかし、それはこの世の常だ。次の世があるか知らぬが今生の生は生である。「いとふことなかれ。ねがふことなかれ」という達観があるいはあるのかもしれない。

 従妹や従兄にそのことで電話し久しぶりに声を聴いた。

 血縁とは何だろうと改めて思う。彼女や彼の声には懐かしい記憶が言葉の瞬間瞬間から脳裏に去来する。また同時にその声と記憶は現在の彼らと私の間で泡のように消えていく。

 光陰矢の如しという古人の言葉は痛烈である。明日は我が身と言う言葉も他人事ではない。「完全看護」だから「母ちゃん(叔母)も付きっきりでなくてもいいのよ」と話す従妹の説明の声を聞いて想い起こすベッドにちんまりと横たわる叔父の姿を見れば全身全霊で了知しなければならぬ人の姿である。

 夏。若い男や女は半裸の姿で哄笑し装い街を闊歩する。陽は地上をチリチリと焼き季節は移る。アカショウビンもいつか地上か海上に滑落し息絶える。その一瞬は果たして至福の時か後悔と絶望か。

 存在は川面を漂う水の粒子の如く淵にたゆたい、瀬に翻弄され、分解されて大気となって地球を見晴るかす。人の存在もかくの如しであろう。しかし魂魄はそのとき何処にあるだろうか。無いのか有るのか。

 叔父の命よ。泡であろうが、それは血を分け合った私との関わりを私は忘れることはない。母を通じてあなたの魂魄を私は記憶の中にひっそりと留めようと思う。

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