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2007年1月 5日 (金)

アーノンクールのブルックナー

 ブルックナーの交響曲というのは西洋古典音楽(いわゆるクラッシクと言い慣わされる)ファンの中でも評価はマチマチな作品である。巷で多くの人が耳にするモーツァルトやベートーヴェンなどに比べると大体が流麗でなく、メリハリがほとんどない。とっつきにくく、茫洋として、思いつきでとってつけたような、まぁ何がなんだか正体不明で、出来上がりの不細工な、音の「建造物」みたいな音楽である。作品の構成はともかく音の響きは彼が教会のオルガニストでオルガンの響きをオーケストラに持ち込んだためともされている。ブラームスの音楽がモーツァルト、ベートーヴェンという「正統」を継承しているのに対しブルックナーは明らかに異質である。それは彼が熱烈なワーグナー信奉者だったせいでもある。ハイドン、ベートーヴェン以後のドイツ・オーストリア圏の古典期から近代に至る音楽史ではワーグナーに心酔し、「孤高」とも形容できる、ひたすら長大な作品をブルックナーは書き続けた。

 ワビ、サビ、芭蕉の俳文、俳句に象徴される簡潔。これが我が邦の文化の急所とするならブルックナーの重厚長大な交響曲作品が日本で現在のように人気が出たのは評論家の宇野功芳氏の批評の力が大きい。それはその世界では「常識」である。宇野氏こそが日本へのブルックナー紹介の最大の功労者と言っても差し支えなかろう。同時に氏は、存命中は世界最長老の指揮者という記録を更新し続けた(はずだと思うが確かめたわけではない)朝比奈隆氏のブルックナー演奏を高く評価し世界有数のレベルとも持ち上げた人でもある。クラシック業界という外国人崇拝が多い植民地根性に篭絡された、とアカショウビンを含めて自嘲とも揶揄してもよい世界で日本人演奏家をちゃんと評価した骨のある「評論家」である。かくいうアカショウビンも今から約30年も前の学生時代から宇野氏の批評を案内に各作品に親しんでいったクチである。

 ブルックナーの交響曲は若いときはともかく歳をとると全曲を聴き通すのがシンドイ。しかしながらCD売場で面白そうな盤があるとついつい買ってしまう。本日も正月呆け、アルコール漬けの体で朦朧と仕事を終えCD売り場をウロツイているとアーノンクール指揮ウィーン・フィルという「交響曲第5番」の 廉価盤を見つけ今夜の子守唄代わりと買ってしまった。録音は新しい。2004年の7月7日~14日にウィーンのムジークフェラインザールでの録音と記載されている。脳裏には昨年の来日時のテレビ放送での姿が明滅した。

 ニコラウス・アーノンクールという指揮者はアカショウビンにはあまり馴染みのある人ではなかった。たまに専門誌や新聞の演奏評を読んだりすると、才気に走りすぎた人という印象があり敬遠してきたのが正直なところだ。それが昨年のモーツァルト・イヤーで2つのオーケストラを指揮したのをテレビで見て面白かったのだ。あのウィーン・フィルの楽員達がシャカリキになって指揮者にコントロールされている。指揮する姿が実に生き生きとしている。大きく眼を剥いた表情は水木しげる描く妖怪の如きである。70歳は越えているはずだが背筋は伸びて実に若々しい。晩年のカール・ベームが来日した時の腰の曲がったいかにも枯れた名指揮者といった姿とは実に対照的だ。ベームの場合はあれで見た目以上の信頼関係があったのだろうが。アカショウビンはアーノンクールのかくしゃくたる姿と指揮ぶりの映像に先ず驚かされた。

 吉田秀和氏は昨年暮れの音楽時評でアーノンクールがかつて指揮したモーツァルトのオペラを「とても人間臭い」音楽と評していたのではなかったか。ブルックナーを聴いても、その指摘は当て嵌まるのではないか。あの茫洋としたブルックナーの音楽に細やかな解釈が加えられ、まるでファンタジックな「物語」を読み込んだ、とでもいうような演奏だ。これはブルックナーファンの間では好みが別れるところだろう。最近の専門家の批評は読んでいないがいずれ他盤とも比較してみよう。だが何せ演奏に1時間を超える作品である。次々と比較するというわけにはいかない。

 この演奏は1楽章20分34秒、2楽章14分57秒、3楽章13分35秒、4楽章23分59秒。延べ1時間13分5秒!えーっと呆れるなかれ。この長さこそブルックナーワールドなのである。ワーグナーの楽劇の長さからすれば軽いもの、と心得てオルガン的な音の世界に没入しなければならない。すると時に霊妙な響きが聴こえてくる。

 

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