« T君とK君への手紙 | トップページ | 運命の垂直的超越 »

2006年6月23日 (金)

頭蓋骨に打ち込まれる鉄道線路

 ミシェル・フーコーがビンスワンガーの「夢と実存」という著作を分析したなかでタイトルの症例が紹介されている。ビンスワンガーが報告している患者は次のような話をしたという。(「精神病理学における空間問題」1933年2月24日 『神経学精神医学年報」所収)

 「ベッドに横たわると、部屋の窓のむこうに見える鉄道線路の一部分が、地平線からはずれて部屋の中に闖入し、部屋を横切って自分の頭蓋骨に穴をあけ、杭のように脳に打ち込まれるという思いにとらわれる」。(「フーコー・コレクションⅠ狂気・理性」2006年5月10日 ちくま学芸文庫 「ビンスワンガーの『夢と実存』への序論」p77)。

 この症例は、先日観た「茶の味」(2003年 石井克人監督)という映画作品で逆の姿で現れる。こちらでは、主人公の少年の額から電車が出てくるという映像で。脚本も書いた石井監督は、おそらくビンスワンガーのこの報告を、直接にか、あるいはフーコーの著作を通してか読んでいると思われる。それは唐突なアイデアと思われたが、なるほど根拠のある設定なのだな、と納得した。

 フーコーの論考は1954年に出版されたものである。その頃の一連の論文を読むと、明らかにハイデガーの存在論を視野に入れて思索する人物がそこにいる。フーコーはドイツ語に堪能で、ハイデガーの影響と思われるが若い頃からヘルダーリンの詩にもかなり親しんでいる。そのフーコーが、代表作の「言葉と物」、「狂気の歴史」、「性の歴史」を発表したあと最後はエイズで死ぬという事実はとても象徴的なことのように思う。

   第二次世界大戦のあとの世界はナチズムや広島・長崎への原爆投下という人類に突きつけられた新たな問いに回答を迫られるなかで、実に様々な答えが洋の東西で提出された。その中でフーコーの著作はハイデガーやヤスパース、レヴィナスの著作と並び高峰のように屹立している。「言葉と物」は難解だが、それに至る初期の論考は彼の全貌を知るうえで興味深い足跡が読みとれる。

|

« T君とK君への手紙 | トップページ | 運命の垂直的超越 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/111335/10642616

この記事へのトラックバック一覧です: 頭蓋骨に打ち込まれる鉄道線路:

« T君とK君への手紙 | トップページ | 運命の垂直的超越 »